【開催報告】オープンエデュケーションセンターセミナー2019「ラーニング・スペースとラーニング・アナリティクスの動向」

オープンエデュケーションセンターでは、2019年7月30日(火)に情報教育館3Fスタジオ型研修室で、オープンエデュケーションセンターセミナー2019「ラーニング・スペースとラーニング・アナリティクスの動向」を、高等教育研修センター、および日本オープンコースウェア・コンソーシアムとの共同で開催いたしました。

本セミナーでは、近年国内外の大学で導入が進んでいるアクティブラーニング支援のためのラーニング・スペースについての国際動向と、学習履歴データを分析し教育改善に役立てるラーニング・アナリティクスの研究状況や最新の活用事例をテーマとして、各分野の研究者の方々をお招きし、基調講演を行いました。また、オープンエデュケーションセンターでの教材開発において、ラーニング・スペースやラーニング・アナリティクスの観点から見た開発事例を紹介いたしました。

基調講演1

Innovative Physical Learning Spaces
Global Trends in Design, Perspectives & Challenges

John Augeri氏(パリ地域圏デジタル大学 副所長、上智大学海外招聘客員教員)

基調講演1では、ラーニング・スペースの国際専門家であるジョン・オージェリ氏にご登壇いただき、ラーニング・スペースの国際比較研究についてお話しいただきました。デジタルとアナログの技術が共存したアクティブラーニング・クラスルームや、学生同士が共同作業をしやすいように設計されたレクチャーシアターについて写真や動画を交え紹介していただき、それらフォーマルスペースという括りに入れられるものと、教育機関においての近年のトレンドである、ラーニング・コモンズやラーニング・センター(新世代の図書館)といったインフォーマルなラーニング・スペースとのゾーニング、一体化についてご教示いただきました。

伝統的なキャンパスの教室にアクティブラーニング・スペースを導入するとき、建造物の構造上大規模な変更はできないため、机や椅子などのレイアウトを変えることになります。そのことから教育機関側が導入に伴う収容人数の減少を懸念している状況がありました。カナダのマギル大学の事例紹介の際に、教室のレイアウトを変えたことで席が何%減少したでしょうか?とオージェリ氏が参加者へ予想を問う場面がありました。20%減、あるいは30%減か——結果としては収容人数の減少は5%にとどまりました。この具体事例の紹介では既存の教室へ導入する場合でも、機能を保った状態でのリ・デザインが可能であることが示されました。
教育機関ごとに抱えている問題には差異があり、魔法のレシピはないとした上で、まずは実際にスペースを利用している人々の話を聞き調査すること、スペースの整備だけではなく運営側へのファカルティ・ディベロップメントが必要であることなど語られ、“Lat’s go Beyond the Dogma”というコンセプトをご提示いただきました。

 

基調講演2

ラーニング・アナリティクス研究の動向と活用
永嶋 知紘氏(カーネギーメロン大学 Ph.D. in Human-Computer Interaction)

基調講演2では、オープンエデュケーションセンターの職員として勤務のご経験があり、現在もオンライン教育やオープン教材開発の研究を続けておられる永嶋知紘氏にご登壇いただき、ラーニング・アナリティクス研究の動向とカーネギーメロン大学の活動、学習分析ツールのご紹介をいただきました。
ラーニング・アナリティクスの特徴として、可視化(visualization)やステイクホルダーを取り込んだ対話分析といった手法が用いられることを踏まえ、同じく統計を用いたデータ解析を行う教育データマイニング(EDM)と比較して解説いただきました。自動化を主眼に置き、スモールスケールで分析する傾向のあるEDMに対し、ラーニング・アナリティクスは人間の判断を重要視し、包括的なシステム構築を目指すものであるということです。また、現在の研究動向で注目されている点として、学習履歴データの取得・解析にあたっての倫理的な問題についての議論と、ユーザー中心デザインの潮流についてご解説いただき、その具体的な例として、話題を集めた論文や教師との共同開発を行なったアウェアネスツールについてご紹介いただきました。
カーネギーメロン大学の学習科学研究組織であるLeanLabでは、Cognitive Tutorsをはじめとした学習支援・教育分析ツールが多数開発されており、OpenSimonの取り組みで現在、15のツールがオープンソース化され誰でも自由に利用できるようになっています。永嶋氏ご自身によるテープ図を使った数学の概念的知識・手続き的知識についての学習研究のご紹介では、研究で活用されている学習分析ツールであるDataShopとLearnSphereを実際にデモ操作していただき、具体的な活用方法をご教示くださいました。

 

北海道大学における事例紹介

北海道大学における事例紹介では、まず重田勝介副センター長よりオープンエデュケーションセンターの教材開発と教育支援の活動について、具体的な教材説明を含めた概要を紹介しました。また、ラーニングスペース活用の事例として、副センター長自身が担当する「大学生のための情報社会入門」の講義を紹介しました。
この講義では、センター制作のオンライン教材を活用した反転授業を行っており、授業運営にあたってはグループワークをはじめとした演習が中心となっています。学生は可動式什器が備えられた高等教育推進機構S棟のeラーニング教室でディスカッションや課題制作などを進めていき、最終課題として「情報社会を生きる」をテーマにした教材制作を行います。課題提出の際にはファイル共有サービスを活用し、学生同士が成果物のピアレビューを行うことによって、教材改善ができる仕組みとなっています。教室とオンラインの両面から共同作業を支援するラーニング・スペースを提供した事例です。

 

続いて田中宏明特定専門職員から、保健科学研究院の教員と共同開発を進めている「生活援助看護技術Ⅰ」のビデオ教材開発と学習履歴の分析について紹介しました。看護技術の知識・技術・態度の習得を目指す教材として、担当教員へのヒアリングや教材設計を経た上での収録、動画編集など作業の段階ごとに打ち合わせを行い、開発を進めた経緯について説明しました。
学習履歴の取得にあたっては、教材を北大ELMSとMediasiteを連携した視聴プラットフォームから提供することで、学生の視聴環境や再生時間など視聴履歴のデータが取得でき、教材利用の実態を把握することができました。また、e-learning運用後に看護教員が実施した学生への仔細なアンケートを分析し、教材改善を進めていく展望を示しました。今後は、ビデオ教材ごとの学習目標と実技試験の評価項目との整合性を基にした教材改善や、学生の実技試験合否と視聴履歴との関連性の分析などが課題となっています。

 

本セミナーは日英同時通訳の環境で開催され、各講演とも質疑応答の場面では多様な参加者の方々から発言がありました。インフォーマルなラーニング・スペースが教育機関の中でトレンドになってきている背景に、MOOCの停滞があるのではないかという見解がオージェリ氏から示され、オンラインとフィジカルのバランスについても話題となりました。また、永嶋氏の講演の質疑応答では、教育分析ツール活用にあたっての研究者へのサポート体制についてご解説いただくなど、登壇者と参加者との間で意見交換が活発に行われました。

 

また、新しい試みとして講演のライブ配信を行いました。プログラムを通して最大20名の視聴参加があり、遠方の参加希望者への対応として今後も活用が期待されます。

 

この度のセミナーではラーニング・スペース、ラーニング・アナリティクスについて最新の研究動向や事例をご教示いただき、今後のオープンエデュケーションセンターの教材開発において、重要な示唆を得ることができました。当日ご登壇いただきました講師の方々、会場およびライブ配信にてご参加くださった皆様方に心より感謝申し上げます。