北海道大学「Digital Creative Grids (グリッズ)」は、北海道大学附属図書館・北図書館内に設置された、アドビのクリエイティブツールを活用してデジタルリテラシーを学ぶためのスペースです。
本セミナーでは、はじめに高等教育におけるマルチモーダルな学習活動と学習評価について国内外の事例を紹介するとともに、本学グリッズの取り組みを取り上げながら、マルチモーダルな(=多様なメディア様式を用いた)学習活動の可能性について情報提供をいたしました。
開催日時:2026年2月19日(木)15:00~16:30
参加者:41名(対面 3名、ウェビナー 38名)
記録動画と講演資料は、下記のリンクからご覧いただけます。
>> 記録動画(準備中)
>> 講演資料(PDF)
講演1 マルチモーダルな学習活動と学習評価を取り入れた制作型授業の可能性

はじめに、北海道大学オープンエデュケーションセンター 副センター長 重田勝介教授にお話いただきました。マルチモーダルな学習活動とは、マルチモーダルな成果物(複数のメディアの様式を組み合わせた表現)の制作を取り入れた学習活動です。
重田教授は、マルチモーダルな学習活動の成果物が、最終成果物だけではないことを紹介しました。最終成果物に至る過程で、「企画書」や「設計書」などのアウトプットがあり、それを実現するための具体的な表現として「映像」「画像」「テキスト」などの様式が組み合わされ、成果物全体を構成するという考え方を示しました。

最終成果物に至る過程で生まれる成果物に着目することで、さまざまなマルチモーダルな成果物を既存の学習評価と組み合わせる発想がうまれます。つまり、最終成果物の評価だけに限らず、途中の成果物をきちんと評価対象として位置づけるという発想に立つことができます。重田教授が2014年から続けている授業実践においても、最終成果物と共に途中の成果物も提出させ、評価の対象としています。最終成果物はルーブリックにより評価されますが、途中の成果物は、学生自身によるモニタリングや、相互評価でのメタ認知促進、教員による進捗確認のために実施する形成的評価として位置づけられています。なお、途中の成果物と成績評価の関係については、「成果物の提出」や「相互評価での貢献」などに限定したといいます。

ここで重要なのは、学生の自己モニタリングの機会を意識して、「なんらかのかたちでフィードバックする」ことを前提にすることです。たとえば教員負担をできるだけ減らしたい場合、成果物に対するフィードバックを授業中のプレゼンで完了させるなどの工夫もできます。また、すべてを教員が評価するのではなく、適宜、「学生の自己評価」「学生の相互評価」を組み合わせたり、進捗確認の要所として位置づけるなど、「つくらせっぱなし」にさせず、学生同士のインタラクションも生み出すことができると、なおよいのではないか、と重田教授は講演を締めくくりました。

このように、重田教授が長年の授業実践で培った経験をもとに、マルチモーダルな学習活動と学習評価を授業に導入する際のポイントについて、お話しいただきました。教員による評価の負担という課題に対して、全てをマルチモーダル化しなくてもよいという提案は、導入のポイントと思われます。
講演2 Adobe Expressを使ったデジタルリテラシー教育の実践

続いて、オープンエデュケーションセンターの藤岡千也准教授にお話いただきました。まずは、北海道大学でのデジタルリテラシー教育をおこなう環境についての情報共有からはじまります。
本学はアドビと包括契約を結んでおり、教職員は個人PCで、学生は学内端末で、アドビツール(イラストレーターやフォトショップ、プレミアなど)を利用できる環境です。また、Adobe Expressに関しては、教職員・学生ともに、個人PCで有償のプレミアムプランを利用可能です。こうしたアドビツールが身近な学習環境を活かして、2025年からデジタルリテラシーについて学べるオープンアトリエ「グリッズ」を運営しています。

ひとつは、「ログインからExpress の基本的な使い方」に関する軸です。これは「Adobe Express で何ができるのか」というソフトウェア自体に関する知識であり、ログインという初歩的な課題から、素材探索や画像生成AIの利用、他者との協同、アドオン追加など多岐に渡ります。藤岡准教授は、とりわけ他者との協同編集にAdobe Express の可能性を見出しています。
もうひとつは、「デザインの基本的な知識」に関する軸です。藤岡准教授は、発見したテンプレートを使うにも、テンプレートの構造を理解して自分の表現にうまく取り入れる見取りが必要だということを、受講者の反応から痛感したと言います。こうした授業やワークショップでの経験から、「文字」「色」「写真」「観察」「視点」「体験」、そして「著作権」といった「デザインの基本的な知識」のモジュールが検討されるようになります。

こうした2軸での展開を基礎として、セミナーやワークショップを企画・運営してきたことで、「何を教えればよいのか」を考えやすくするための教材のモジュール化が進みつつあります。藤岡准教授は、「学習目標に対して、限られた時間の中で何を教えるかを考える上で、モジュール化された教材の用意は有用ではないか」と語ります。加えて、Adobe Express に実装されている機能や表現手法がワークショップの内容そのものを押し広げ、新たな視点を提供しててくれることにも目を配りながら、今後もデジタルリテラシー教育の推進に尽力したいと締めくくりました。
マルチモーダル型授業 学修支援モジュールのご紹介

続いて、アドビ教育事業本部 小材氏よりマルチモーダル型授業 学修支援モジュールについて、大きく3つの観点から、情報提供いただきました。

一点目は、成果物のマルチモーダル化に賛成だとして、「具体的にはどのように授業に取り入れる?」という問いです。小材氏は、海外ですでにアドビが提供をスタートしている「学修支援モジュール」について紹介しました。日本語版は現在、重田教授が監修し、日本語化を進めています。
二点目は、「国内外の具体的事例はある?」という問いです。ここでは、米国のサンディエゴ州立大学での事例を紹介いただきました。First Year Seminarという新入生が受講する授業のなかで、学生が自身のことを理解するために「LifeTree」を可視化する活動をおこないます。当初はGoogleスライドを使用していましたが、Adobe Expressにツールを変更したことで、素材探索や画像生成AIの利用などはもちろん、動画・音楽・ポッドキャストを組み合わせた、マルチモーダルな表現に取り組めるようになりました。
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米国サンディエゴ州立大学 First Year Seminar事例
https://new.express.adobe.com/webpage/PqigHZxkdCXfW -
First Year Seminar Life Treeテンプレート
https://new.express.adobe.com/webpage/HjzZFOD2iSknL/remix
三点目は、「学生にExpressの使い方を教えないといけない?」という問いです。ここでは、Adobe Express のホーム画面左端にある「学ぶ」というアイコンで数々の「チュートリアル」を参照できることをご紹介いただきました。
質疑応答

質疑応答は、講演者である重田勝介教授、藤岡千也准教授が登壇し、アドビ教育事業本部の小材氏、小池氏のご協力のもと、Adobe Expressによるコメントボードを使って実施されました。
議論は、本学の活動において「どうしてAdobe Expressを選んだのか」、「オーセンティックアセスメントの例として、どのようなテーマの授業が考えられるでしょうか」「学生さんのエンゲージメントを高めるアウトプットの形式とは」、「マルチモーダルアウトプットに生成AIや画像・動画生成AIを組み合わせた課題などでアイデアがあればお伺いしたい」、「デジタルリテラシー教育において、学生の専門領域の違いや、文系・理系の別によって、ニーズや特性に違いは見られますか」など、ソフトウェアの選択からはじまり、マルチモーダルな学習活動の基盤とも言えるデジタルリテラシー教育全般について、意見が交わされました。
参加者の皆さまには、フォーラム後のアンケートにご協力いただき、ありがとうございました。プログラム全体を通して多くの方からポジティブな評価をいただき、「授業に取り入れられそうなヒントがたくさんありました」「とても分かりやすくて、自分の講義の組み方もちょっと工夫しようと思いました」などのコメントも寄せられました。
他方、「それなりの予備知識がないと、理解が難しい」「とても良い内容でしたので、ご発表や質疑応答をもうちょっと長く(あと5分程度でも)設定していただきたかった」などのフィードバックもいただきました。今後の活動に活かしてまいります。
今回のセミナーで得られた知見や参加者の声を踏まえ、グリッズが「マルチモーダルな学習活動と学習評価を取り入れた」新しい学習環境の中核となるよう、より一層の充実を図ってまいります。
今後も、学生・教職員がつながり、共に学びを深める拠点として、グリッズの発展に取り組んでまいります。


